■10■

●月○日

今日は久しぶりに坊っちゃまが帰ってきて下さいました！
と、大喜びしたのも束の間。遠出するための船を至急用意して欲しいとのことでした。
もちろん坊っちゃまの頼みとあらば、船でも何でもご用意してみせますが…、そろそろ事務所に戻ってきて欲しいと思うのは、私のワガママなのでしょうか。

おっと、私が落ち込んでも仕方ありません。
たとえ今晩だけでも、せっかく坊っちゃまがお戻りになったのですから、誠心誠意のおもてなしをしなくては。もちろんお仲間の方々にも…
しかし、坊っちゃまのお仲間もずいぶんと珍奇…、もとい、バラエティに富んで参りました。忍者に猫に吸血鬼に…
今さらではありますが、坊っちゃまがどのような旅をなさっているのか、少々不安を覚えてしまいます。


■09■

＄月◎日

坊っちゃまのお役に立つ物を作ろうと、あれこれ考え始めて早一ヶ月。
悶々とした日々が続いておりましたが、ついに本日、ガーランド財閥の技術班から試作品が届きました！
一見普通の掃除機のようですが、同封の注意書きを読むと、「相手のやる気を吸い取る掃除機」とのこと。
…いったい、どういう理屈の機械なのでしょうか。我が社の技術力も中々侮れません。

さて、肝心の品物は用意できたわけですが、問題はどうやってこれを、坊っちゃまにお渡しするかですな。
旦那様の会社からだと素直に言ってしまうと、きっとご機嫌を損ねてしまうでしょうし…
第一、掃除機をかまえる少年探偵というのはシュールすぎて、おそらく坊っちゃまのご趣味にはあわないでしょう。
ううむ、これはまた大きな問題を抱えてしまいましたな…


■08■

☆月×日

最近、坊っちゃまはほとんど事務所にお戻りになりません。
たまに帰って来たと思ってもと、一日休んでまた長旅に…
事件の調査でお忙しいだとは分かっているのですが、旅先で危険な目に遭っていないかと想像すると不安でなりません。

一方の私は、あまりの退屈ぶりに時間を持て余している始末。
事務所の留守を任されているとは言っても、元々そんなに仕事があった訳でもありませんし…
坊っちゃまがいた頃はあんなに忙しかったのを思うと…、どうやら私は、生活時間のほとんどを坊っちゃまのお世話に費やしていたようです。

近所の奥様方から「ちょっと過保護では？」と言われたこともありますが、不肖このレニ、生涯お坊ちゃまにお仕えすると誓った身。
この空いた時間も、坊っちゃまのために使うのが正しい主従の関係というものでしょう。
坊っちゃまの旅がいつまで続くかは分かりません。せめて何かお役に立つ物でもご用意できればよいのですが…


■07■

♯月♭日

まだ夕方前なのですが、用事が出来てしまったため、本日は早めに日記をしたためております。

事の始まりは、先ほど探偵事務所を訪ねてきた依頼人。
保釈中に逃亡した容疑者を探して欲しいとのことなのですが、うちのような小さな事務所（坊っちゃまの前では口が裂けても言えません！）に依頼するには、あまりにも大きな事件。
何か裏があるなと思いはしたのですが、坊っちゃまは深く考えもせず、引き受けておしまいになられて…

本当は留守番をしておくよう言われたのですが、こっそり坊っちゃまの後をつけて行こうかと思います。
ニューヨークには、まだまだ治安が悪い所も多く、万一のことがないとは限りませんし…
ああ！　それにしても何故坊っちゃまは、このような無茶ばかりなさるのでしょう！？
今回の件が済んだら、少し強めにお話した方がいいかもしれません。


■06■

▲月○日

本日は最近親しくさせて頂いている、スザンナさんの買い物のお供をして参りました。

なんでも新しい食器棚をご所望だったのに、男手がなくお困りだったとのこと。
困ったご夫人を前にして何もせずとあっては、このレニだけでなく、ガーランド探偵事務所の評判にも響こうというもの。
喜んで一肌脱がせて頂くことに。
スザンナさんは、私より一回り若い２８歳。
ご亭主が船舶関係の仕事に就いているため、年に数回しかお会いになれないとのこと。
なんと不憫な話でございましょう…
私には結婚の経験はございませんが、仕事の関係で数年ほど坊っちゃまに会えない時期がありました。
その寂しさたるや、とても言葉に代えられるものではありません。

無事買い物も終わり、スザンナさんからお礼に中でお茶でもとのお言葉。
一度はお断りしたのですが、あまりに残念そうな顔をなさるので、ご好意に預かることにいたしました。
まあ、私のような者が話し相手になるだけでも、彼女の寂しさがまぎれるのであれば、それはそれでよし、とするべきでしょうか。